FILE:03 SCENE

Devilish heart



「あ、雨降ってる…。せっかく出かけようと思ってたのに。」

今日は休日だというのに、外はどしゃ降りの雨。
窓を開けるとひんやりと湿ったような風が、部屋の中に流れ込んできた。

「そんなにがっかりするなよ。二人でのんびり過ごせばいいだろ?」

起き掛けのまま、アオの手によって服を着せられたアクルクスは
今は残念そうに呟く背中に視線を向けつつも、ベッドの上でクロと戯れている。

「のんびり過ごせられたらね。今日もアクルクスと1日一緒なんて、身が持たないよ…。」

小さく溜息を付きながら窓を閉め、アオは恨めしげにアクルクスの方を見る。
昨夜も一晩中濃厚に愛されたばかりか、既にこれでもかという程魔力を吸い取られているのだ。
今はぐっすり眠った後なので気分は良い方だが、これでまた襲われようものなら
貴重な休日は、それだけで家事もままならぬほど気だるく過ごしてしまうことだろう。

「とりあえず、こっち来い。」
「ん…。」

アクルクスに呼ばれてベッドの方へ戻ると、腕を引かれ軽々と膝に抱えられてしまった。
背中と腰に絡めるように腕を回され、そのままアオが体重を預けると
嬉しそうに目を細めたアクルクスが、腕の中の愛しき者に軽くキスを送る。

「身が持てばいいんだろ?」
「え…?」
「今日はアオとこうしてるだけでいい。」

思いがけないその言葉に、アオは目を丸くした。
今まで休日に家に居るようなことがあれば、ここぞとばかりに自分の体を求めて来たはずなのに。

「アクル…?」

悪魔である相手にそんなことはないと思ったが
一応額に手を当てて熱を計ってみると、いつもと変わらない温度が伝わってきた。
アオの行動に、アクルクスはそんな驚く顔が愛しくて、額に口付ける。
そのまま柔らかな髪の感触を確かめるように唇を滑らせると、アオはくすぐったそうに微笑んだ。

「いつもとちょっと違うねv」
「…この焦れったさも、たまにはいいかもな。」
「(あ、やっぱ焦れったいんだ…)でも珍しいね。アクルがそんなこと言うなんて。」

いつもなら、この辺りでアオの肌を探り始め、誘うような甘いキスを齎してくるはずだが
今日のアクルクスは抱き締めて色んな場所に唇を寄せるだけで、一向に襲ってくる気配はない。

「これが"人間の愛し方"ってやつなんだろ?…俺がアオに求めてるのは、体と魔力だけじゃない。」
「う…。そんなこと言われると弱いけど…。」

悪魔であるアクルクスがアオの体を求め続けてしまうのは、仕方の無いことで。
それでも、ちゃんとそんな風に考えてくれたことが、アオにとっては凄く嬉しかった。

「アクル、大好き…。」
「ん。俺も。」

いつもなら、照れてしまってあまりできないことだが…
想いが込み上げる衝動そのままに、アオは自分からアクルクスの唇に口付けを送る。

"愛してる"は、また今度。
今はお互いに 静かに温もりを感じ合っていたかった。



end

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