FILE:03 SCENE

〜月の章〜

雪月花

後章再生の薬


「再生の秘薬!?」
「はい、本当は移植の方が良いと思ったのですが、どっかの馬鹿が、もう探せないと言い出しましてね」

以前から、銀が秋の目を治そうとしているのは分かっていたが
まさか弟を使って、異世界から取り寄せようとまでしていたとは知らず。
この前一緒に、銀の弟が居るという花屋に行った時に、初めてそのことを知った私は
正直、銀があそこまで秋の瞳にこだわっているとは思わなかった。
というか、探せないと言われたのも銀のこだわりが強すぎるからじゃないかと思う。

「あの赤い目も、結構綺麗でしたけどね。…瓶詰めはグロかったけど。…で、代わりに元の目を再生する為の薬を取り寄せたって訳ですか?」
「あれでは、以前より劣ってしまいますから。やはり秋様の目は、あの色合いが一番良いのではないかと」

確かに、私も以前の瞳の色が戻れば一番だと思うが
それよりも安全性というか、何故最初からそうしなかったのかが気になる所だった。
たぶん、銀ならすべて考えているだろうから、あえて聞きはしないが。
これで"血の戒め"までも戻ろうものなら、結構キツイことになる気がする。

「秋さん、寝てます?聞いてます?」
「…侑奈、お前少し太ったか…?」
「ひっどい!起きてるなら起きてるで、もう少しまともな発言してくださいよ!」

いつものように、私の膝に頭を乗せてひと休みしていた秋は
あろうことか人の太腿をつねり、その肉付き具合を確かめていた。
その光景に、ふさふさした耳でもつねって仕返ししてやろうかと手を伸ばすと
秋はタイミング良くすっと起き上がり、私の怒りも無視して銀と話し始めてしまう。

「あと十数年くらい待てば、自然と回復する可能性もあるが」
「ですが、侑奈様の太りようはともかく、お子様の成長ぶりは見たいでしょう?夏にはお生まれになることですし」
「…それもそうだな」
「待って。今銀も酷いこと言った!?」
「多少再生する時に痛みは伴いますが、これなら私の力も合わせれば二週間程で見えるようにはなると思います」
「痛みには慣れている。遠慮なくやってくれ」
「そんな太ってないです!お腹が大きくなったからそう見えるだけで!!」




私の必死の訴えも聞かず、男二人でどんどん話を進めていってしまう状況に
しまいにはそこから離れて拗ねていると、会話が終わったのか、ようやく秋が戻ってきた。

「そんな所に座っていると、腰が冷えるだろう」
「だって、会話に参加できないし」

秋の言葉にも、ふてくされてそっぽを向いていると
後ろからお腹の辺りに手を回され、優しく抱き締められた。
この世界に来てからの秋の行動は一時を除いて、限りなく優しい。
もっとも、掛けられる言葉は相変わらず、いつも意地悪なものばかりなのだが…。

「お前は自分のことだけを考えていればいい」
「それはずるいです。秋さんは沢山お節介やいてくるくせに」

でも、今度も私は諦めたりなんかしない。
守られるだけではなくて
いつか皆に、幸せを与える存在になっていきたいと思うのだ。



終わり

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